【2026年6月施行】就労継続支援B型の報酬はいくら減るのか。下がるのは「工賃区分が上がった事業所」だけという設計
まず、2つの改定を切り分ける
今回の令和8年度改定でB型に関係するのは、性質のちがう2つの見直しです。混同されている解説が多いので、先に分けておきます。
ひとつは、基本報酬区分の基準額の引き上げ(令和8年6月施行)。これは既存事業所が対象です。
もうひとつは、新規指定事業所への応急的な単価特例。所定単位数の1000分の984、約1.6%の引き下げです。こちらは令和8年6月1日以降に新たに指定を受ける事業所が対象で、すでに運営している事業所は対象外です。
SNSでは「B型が1.6%下がる」という言い方をよく見かけますが、984/1000は新規指定の話です。いま運営している事業所に効いてくるのは、前者のほうです。
なぜ「上がった事業所だけ」が下がるのか
ここが今回の改定の核心です。
令和6年度改定で、平均工賃月額の算定式が変わりました。
従来は「前年度に支払った工賃総額 ÷ 各月の工賃支払対象者の総数」でした。これが「年間工賃支払総額 ÷(年間延べ利用者数 ÷ 年間開所日数)÷ 12ヶ月」という式に変わっています。あわせて、入院などによる「著しく利用が困難な期間」の除外要件も廃止されました。
この変更の趣旨は、障害特性などで利用日数が少ない方を多く受け入れている事業所が不利にならないようにすることでした。方向としては、まっとうな見直しだったと思います。
問題はその結果です。全国の平均工賃月額が約6,000円上がりました。事業所が工賃を上げたからではありません。計算式が変わったからです。
そして令和8年度改定は、この上昇を「想定以上に高い報酬区分に該当する事業所が増えた」として調整します。基準額を一律3,000円引き上げ、対象は令和6年度改定の前後で区分が上がった事業所のみ。上がっていない事業所は適用対象外で、従前の区分がそのまま使われます。
つまり、制度が計算式を変えて自動的に上げた分を、制度が回収しにきている。そういう構造です。
定員20名のモデルで試算する
公表資料に出ている例で見てみます。就労継続支援B型サービス費(Ⅰ)、定員20人以下、平均工賃月額21,000円の場合です。
区分が上がっていた事業所は、見直し後の区分表を参照して(E)705単位。上がっていない事業所は、従前どおり(五)726単位。差は21単位です。
ここに、定員20名・平均利用率80%(1日あたり16人)・月22日開所・地域単価10円という条件を当てはめます。
21単位 × 10円 × 16人 × 22日 = 月73,920円
年間にすると約89万円です。
今回の見直しでは、報酬の減少を3%程度に抑えるための中間区分(A〜F)が新設されています。なので、これが上限に近い数字だと考えていいと思います。地域区分の単価が高い地域や、利用率がもっと高い事業所では、月10万円規模になります。
なお、平均工賃月額15,000円未満にあたる区分七・八の間の基準は据え置きです。この層の事業所は今回の見直しの影響を受けません。
ぼくがこの改定をどう見ているか
金額そのものは、正直、想定内です。
利用者1人あたりの月額報酬が20万円前後だとすると、月10万円は0.5人分。痛いですが、事業を揺るがす額ではありません。
引っかかっているのは、別の3点です。
ひとつめは、下がるのが「区分が上がった事業所」だけだということ。上がった理由は事業所の努力ではなく計算式の変更なので、努力の有無とは関係なく、新方式でたまたま有利になった側が回収されることになります。
ふたつめは、タイミングです。障害福祉の報酬改定は本来3年に1度。令和6年度の次は令和9年度のはずでした。それが期中改定という形で前倒しで入ってきています。事業所は令和6年度の区分を前提に3年分の計画を立てています。人を採用し、工賃を設定し、設備にも投資する。その前提が2年で変わる。
みっつめは、これが「見込み違いの是正」として処理されていることです。計算式を変えたら想定以上に上がった、だから基準を戻す。設計側の見込み違いのコストを、現場が負担する形になっています。
金額の話より、こちらのほうが経営としては重い。次の前提もまた2年で変わるかもしれない、という状態で計画を立てることになるからです。
事業所がいま確認すべきこと
やるべきことには順番があります。
第一に、令和6年度改定の前後で、自事業所の報酬区分が実際に上がったかどうか。ここが上がっていなければ、今回の見直しは適用対象外です。まずここを切り分けないと、以降の検討が全部ずれます。
第二に、上がっていた場合、見直し後の区分表で自事業所がどこに入るか。中間区分が挟まっている構造なので、旧区分を機械的に一段下にずらして考えるのは間違いです。
第三に、その差額を年額で出すこと。月次で見ると小さく見えますが、年額にすると人件費1人分に届くことがあります。判断するなら年額で見たほうがいい。
あわせて、基本報酬の算定区分に関する届出も必要になります。自治体から様式が出ているので、期限を確認しておいてください。
おわりに
制度は変わります。それ自体は仕方がない。
ただ、変わり方に予測可能性がないと、事業所は長期の投資判断ができなくなります。工賃を上げるための設備投資も、人の採用も、数年先が読めるという前提の上に成り立っているからです。
今回の改定で確認すべきことは3つだけです。区分が上がっていたか。上がっていたなら新しい区分はどこか。差額は年額でいくらか。ここまで出せば、次の判断に進めます。
まずは、自分の事業所がどちらの側にいるのかを確認するところから始めましょう。